旅のラゴス

2012年11月13日
筒井康隆の小説に「旅のラゴス」というのがあって、これがけっこう好きなんですね。

久しぶりに読みたくなって文庫本を買いました。

で、読んでみると最初の12頁でもう、たまらない。なんだかしらないけど、ものすごくいい。

「あー、そうか、立ち読みでこの最初の話を読んで、気に入ったから買ったんだよなぁ。」

と思い出した次第。


最初の12頁の部分だけ書きます。

旅をしているラゴスは、腕力に自信もなく、危険地帯を通るには一人では危ないので、ある旅の集団に身を寄せます。
ウマやウシとともに移動するその民族は、急に寒波が来て、このままでは寒さで旅がうまくいかなくなると憂い、「集団転移」をすることにするのですね。

これはテレポートなんです。
みんなが心を合わせてテレポートするシーンがある。

その集団のリーダーは独身中年のポルテツ。この牧畜民族でのルールはリーダーは独身に限られるんですね。リーダーは独身の方が私利私欲に走らないから妻帯者より適任という通念が、この民族にはあるんです。(だいたいこのあたりの発想が、結婚の遅かった私にはグッと来るわけですが。「そうやで! その通りやで!」って思う。)

ただ、このポルテツ、集団転移の誘導役の経験は少ないので、いままで集団転移で何度か失敗してるんですね。八年前には半数が取り残されるという失敗もしている。

「集団転移には人の配置が重要だ」と老人を真ん中に置き、子供を外側に置く。
「では故郷のイメージングをしよう。」と、故郷の風景の細目を語り出す。

でも集団転移を何度も経験しているラゴスには、それらがことごとく間違っているように見えるんですね。意を決して、ポルテツに「そのやり方ではダメだ」といいに行くんですが、独身リーダーは、ラゴスが経験豊富なパイロットであると知ると、全ての権限をラゴスに譲るわけです。(ここがまたいい。権威主義ではないんですよねぇ。)

そしてラゴスがパイロット役をするわけですが、ラゴスは、この民族の故郷の風景すら知らないわけです。なのに、パイロット役ができるのか? と心配になる。

でも、それは関係ないんですね。ラゴスはとにかく人とけものをルール無用で押しくらまんじゅうのように真ん中に集め、こう言うんです。

-------以下引用---------------
「皆さん。眼を閉じてください。さあ、周囲の人たちやけものたちと同化しましょう。当然の事ですが、あなたの今立っている場所は、あなたのいちばん愛している者にかこまれた場所である筈ですね。あなたの前にいるひと、あなたの隣にいるひとやけもの、あなたのうしろのひと、すべてについて考えてください。あなたの傍にいるそのひとを、あなたがどれだけ愛しているか、心の中で教えてあげてください。あなたの傍にいる馬、牛、あなたは彼をどんな風に愛しているのでしょう。考えることによって、それを彼らに教えてやってください。そしてまた、あなたの傍にいるそのひとや、そのけものは、どれほどあなたを愛してくれているのか、想像してください。それぞれのひとと、けものに、心の中で話しかけてください。あなたは皆を愛しています。みんなもあなたを愛しています。」
 約三分、おれは沈黙した。
「次に故郷のシュミロッカ平原を思い浮かべてください。その平原の中で、あなたがいちばん好きなもの、あなたがいちばん美しいと思っているものを想像してください。どんなところなんでしょうね。わたしも早く見たい。皆さんがわたしにいちばん先に見せたいもの、それを思ってください。」
おれはまた、約三分沈黙した。
「さぁ。これからシュミロッカへ行きますよ。一歩前進すればわたしたち全員がシュミロッカにいるのです。実際に一歩前進しなくてもかまいません。頭の中で、一歩前進することを想像すればいいのです。(以下略)」
-------引用終了---------------

こうして一団は一歩前進してシュミロッカへ移動したわけです。
これが最初の12頁。

もうね、涙出ますね。
ぽろぽろ泣いちゃいますね、私は。

なんちゅうか、最近不況で世の中うまく行ってないですけど、それはポルテツみたいに「こうすればいいはずだ」という善意の勘違いでうまく行ってないだけなんじゃないの?

もっと身の回りの人を、もっと愛そう。というか、愛していることに気付こうよって思う。
とりあえずはまずそれです。

そうすれば「一歩前進」するんと違うんかな? で、それだけでええんと違うんか?

そう思えてくるわけです。


僕はラゴスになりたいです。

ほんとに。

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