震災が起き、原発が爆発した数日後、3月の下旬には、すでにこの「マグネシウムを石油の代替エネルギーにする」という発想を、twitterのフォローしている人のtweetから見聞きはしておりまして。

いやもう、この矢部教授の話を聞いてるだけで、エネルギー問題なんぞは屁でもないのだという気になってしまってたんですが、

「いやあ、そうは言っても、どこかに穴があるに違いない」

と、半分眉唾だったんですね。

それで4月の末に、こういう新書が出ているのを知って、すぐに購入して一日で読み切ってしまいました。(で、すでにもう2~3回読み直してます。)

いやー、もう、面白くて仕方ない。
やっぱり、何回読んでも「穴」がないんだよなぁ。本当に。
で、「穴」がないよなぁということを、あのオタキングの岡田斗志夫も言ってるし、博覧強記の小飼弾も言ってる。そうなのよ、どうにも穴がない。

エネルギー問題は人類にとって大問題ですから、それこそキチンと考えている人はたくさんいて、特に日本はエネルギー資源がありませんから(本当は大嘘。地熱の資源埋蔵量は日本は世界第三位だし、風力もかなり強いから、心配ありません。ま、それはさておき。)、資源をなんとか確保しようと知恵をひねる人が、やはりちゃんといてる、と言うことです。

マグネシウムというのは、海の中に大量にあり(石油で起こすエネルギー量から類推できる可採年数は、なんと10万年です!)、そこから取り出して精錬して金属マグネシウムにしてやれば、通常の火力発電所でも燃やす事が可能なんだそうです。その重量あたりの熱量は、ガソリンの44メガジュール/kg に対して、25.5メガジュール/kg。石炭が30メガジュール/kgで木材が15メガジュール/kgですので、ほとんど石炭並みの熱量を得られるわけです。

しかも、マグネシウムは燃やしてもCO2を発生しないそうです。出るのは「酸化マグネシウム」という白い灰だけ。

で、矢部教授がすごいのは、ここからでして、この白い酸化マグネシウムを、再び精錬して、マグネシウムにしてやれば、循環エネルギーのサイクルが作れる、と言っておられます。

ただ、現在のマグネシウム精錬の方法は、ものすごい電圧をかけて精製する方法と、石炭10トンを使ってマグネシウム1トンを作る方法と2つしかなくて、だからそれでは意味がないわけです。

その基本問題を矢部教授は「太陽光励起レーザー」によって解消しようとされてるわけで、すでにそのレーザーの試作品はできていて、かなりの効率で太陽エネルギーをレーザーに変換しているのですね。
この実用化の道筋が、ほぼ見えているというところがまたすごい。

結局、エネルギー問題をある程度考えたことのある人なら、最終的に人類のエネルギー源は「太陽」にするしかないのだ、ということは、分かっていることでして、あとは取り出し方の問題だけ。

いまもっとも実用的なのは、やっぱり太陽電池でして、昼間の暑い日、あるいは空気の澄んだ秋口、春先などは、かなりのエネルギー量が確保できます。しかも無料で! しかも永遠に!

アホで科学知識のない人は、すぐに「太陽電池はコストが」とかいいますけど、太陽電池なんて、まさに半導体そのもの、それもかなりシンプルなPN型の半導体と言って良いものなわけですから、大量生産すればコストは劇的に下がる可能性がものすごく高い。

パソコンのCPUを見てみなさいっちゅうことですね。あんなもの太陽電池よりのはるかに複雑な構造のチップを「光印刷」というような技術で大量生産してるわけです。工場を造るのにはカネはかかりますが、大量生産すればコストはガックーンと落ちます。

で、変換効率がせいぜい15%だからダメとか言うバカも多いのですが、ガソリン車のエネルギー効率なんて8%から18%の間ですぜ? 旦那。 実用性がありゃ、別に効率なんざどうでもいいのさ。あほか。(ちなみに、すでに変換効率40%の太陽電池はドイツ・アメリカでは開発されてます。日本、遅れを取ってたらアカンで!)
変換効率は15%で良いから、どんどん普及させて価格を下げることの方がはるかに重要な局面に入っているのが太陽電池の技術なんですね。だから、科学知識と経済と生活と、全部をひっくるめて考えれば太陽電池を石油と組み合わせて使うというのが、現状ではやはりかなり正しい。(あ、あとベース電力としての風力も必須。)

ただし。

どうしようもない問題は、「電気は保存できない」と言う問題でして、太陽電池は、ここが弱い。

で、だからこそ、この矢部教授の太陽光励起レーザーによる太陽エネルギーの活用方法は意味が大きいのですね。矢部教授の、この精錬の方法なら、太陽エネルギーを「持ち運びの出来る物質」に変換できる、ということなんです。

これは、おそろしく画期的な事なんですよ。太陽エネルギー活用における最重要問題である、「夜の時間をどうすんねん問題」を、根本から解決してしまってるんです。すごい。画期的。

ちなみに、すでにマグネシウムを電池に活用する技術というのも、どんどん開発されていて、マグネシウム空気電池というのが注目されてます。
このマグネシウム空気電池は、電気自動車の燃料としても、かな可能性が高い。マグネシウム空気電池がすごいのは、「充電時間が不要」って事です。コンビニで乾電池を買うようにマグネシウム空気電池を買うと言うことができる。(多分、使い終わった電池と交換で。)
リチウム電池でもそれは可能だろう、と簡単に考えがちなんですが、誰かが充電しなければならないというのは同じ事ですし、なにより重さに対して得られるエネルギー量が違う。

リチウム電池とマグネシウム空気電池のエネルギー密度の違いは、なんと7.5倍です。同じ1キロの電池があれば、マグネシウムが7.5倍長く走れるということになります。

いまのリチウム電池による電気自動車がフル充電で、100km程度。これなら、都市部で街乗りに使うのなら、まぁ充分ですが、「街乗り」程度なら自転車と路面電車に負けます。自動車はこれからは、都市間交通の道具として使えないと意味がないんですね。でも、マグネシウム空気電池なら大丈夫。単純計算しても700キロくらいは走れますから、東京大阪間を1回の電池で余裕で走りきれるわけです。

ちなみに、現在のガソリン車の一回の給油で走れる距離は約200km程度。東京大阪間で、一回給油が必要です。
もひとつ言うならタクシーは天然ガスを使っていて、一回の給油で500km近いので、東京大阪間は無給油で走れます。
これ、けっこう重要な話。

このあたりの車の話は、まずキチンと考えておかないといけないのですが、とにかく車は、もう電気自動車が絶対です。分かってる人は、これも必ず言いますが、電気供給媒体が何になるかは確定していないけれども、自動車は必ず電気自動車になります。

なぜなら、ガソリン車だと上記でも書いたようにエネルギー効率が8-18%程度で、ほとんどがギアやらシャフトやらシフトやらの「摩擦」で消えていってしまうからです。

電気自動車だと、発電所(火力でも原発でもなんでも良いですが)からの送電ロスや充電池によるロスを勘案しても、元の重油からのエネルギー効率は30%以上になるんですね。だから自動車は電気自動車です。

ちなみに、電気自動車なら、慶應義塾大学教授の清水浩さんが作った「エリーカ」を知らないでどうのこうの言う人は、話にならないので勉強してから考えるように。
摩擦を減らすためにタイヤの中にモーターを入れて、6輪とか8輪で車を動かす。ものすごくエネルギー効率の良い車でして、これなら現在のリチウム電池でも航続距離は楽々300km。しかも、最高時速370km。その上、加速はモーターなので、常に最適回転数が出せ、8輪で安定しているから乗り心地も抜群だそうです。
どうですか、これ。ガソリン車なんて話にならないでしょうが?

(日経ビジネスオンラインがアホでして、「原発がダメになったから電気自動車にもかげりが見える」みたいなパァーな記事を書いてる。本当に程度が低いよなぁ、あそこは。まぁ5大紙系列は、基本的に記者クラブメディアなので程度が低いのは仕方ないのですが。)

もしエリーカにマグネシウム空気電池が載ったら、計算上では、一回の給電で本州の端から端まで移動することも可能ということになってしまう。あああ、ものすごいなぁ、これは。

しかも、このマグネシウム文明論の矢部教授のすごいところは、「海水からマグネシウムを取り出せば、残るのは真水であり、人類の水不足問題も解決できてしまう。」としている事。
ひとつの技術で、他の問題も一気に解決してしまってるのがすごい。

いや、その上、この人、その「海水からマグネシウムを取り出す仕組み」まで、作り出していて、しかもそれは「海水淡水化プラント」として事業化までしていて、すでに海外からプラント発注をたくさんうけているというところ。どっひゃーっていう話です。

で、ここまですごい事がなんで話題にならんのかなぁと思ってたんですが、上記の新書を読んでいて、以下の文章があるのを発見して「そりゃ話題にはならんわな」と納得したのです。
いわく、

●マグネシウム循環社会のビジョンを実現するために必要なのは、国からの補助金ではありません。経済的合理性が成り立っていることこそが、なにより重要です。

ということ。
つまり、必要としている人に必要としている技術を提供していけば、必然的に定着するから、マスコミだの何だのでやたら声高にアピールする必要もない、ということなわけです。

ああ、すごい。
これは本物だなぁって思う。

「海水淡水化プラント」は、あくまで「真水」の確保が目的ですから、エネルギーの話にまではなかなか広がりませんわね。でも、ちゃんと稼ぎながら、次のステップの資金やら研究情報などが、どんどんたまっていってるわけです。

肝心の太陽光励起レーザーによるマグネシウム精錬工場は、まだ出来てませんが、この本を読む限り、実現の度合いはかなり高そうで、しかも、マグネシウムは、いまや加工素材としてもニーズが高いから「マグネシウムを燃料として使う」以前に「材料」として売れるんですね。だから、研究開発の過程そのものが、普通に商売として成り立つ、というところがすごいのです。

そうやって太陽光レーザーで精錬をやれば、いままで電気というエネルギーによる力ずくでやってた金属精錬が、自然エネルギーを使った画期的な廉価技術になってしまうわけです。そら、金属が安くなりますよ。
もしマグネシウムがキロあたり円を切れば、石油とも充分競争力のあるエネルギーになるそうですから、ものすごく楽しみです。

このあたり、本当に日本の科学者でマジメにやってる人は、とんでもなくすごい人たちばかりで、この矢部教授もそうだし、上記のエリーカの清水さんもすごい。

これに加えて、オーランチオキトリウムという「身体の中に石油と同じ成分である炭化水素を作る能力がとても高い藻」を発見した、筑波大学大学院生命環境科学研究科の渡邉信教授なんて人もいてます。

このオーランチオキトリウムも画期的なようなので、これももうちょっと調べたいと思ってるんですが、概略、オーランチオキトリウムがあれば、日本が産油国になるということも夢ではない、ということのようですからねぇ。いや、すごい。

今年の夏は、日本全体が「節電だ」「電力不足だ」みたいな、アホな論議でわーわー言うのは、もう目に見えてるんですが、そういう低脳な論議をするヒマがあったら、ぜひとも、ここに紹介した3教授の話をじっくり聞いてみるべきだと思いますねぇ。

こういう視点もなしに、原発がどうたらこうたら言うてもしゃーないやろが。基本をしっかり見据えなさいよ、と言う気がして仕方ないです。はい。

ともあれ、「マグネシウム文明論」は、2011年の日本において、ぜひとも読まねばらならない、必須課題図書であります。

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