カレーが好きです。

ま、自分で圧力鍋使ってお手軽に作っちゃうのも良いのですが、町の中を歩き回って、おいしい店を見つけると、とても幸せな気持ちになったりもするのです。

いきなりちょっと余談になっちゃうんですが、カレーの店って言うのは、実は生き残りがしんどいんですね。なんでかというと、実は市販のカレールゥというのが、日本企業独特のノウハウの固まりで、そんじょそこいらのパパママ店では、そう簡単に太刀打ちできる味を作れないからなのですよ。知ってました?

ようするに、「家のカレーがいちばんうまい」というのが、マイホーム主義的な思想観とかそういう意味ではなく、単なる事実として「正解」になってるということなんです。

もっと話ははずれるけど、料理好きで知られるタレントのタモリが「うちのカレーがいちばんだ、って言う奴は信用ならん!」とか言ってたらしいですけど、それは考え方としては良くわかります。よくわかるんだけど、でも実は事実とはちょっと違うわけでありますね。

お店のカレーは、おうちカレーには、そう簡単には勝てない!

というのが事実なのです。

このあたりは、

カレーライスの謎―なぜ日本中の食卓が虜になったのか (角川SSC新書) (新書)
水野 仁輔 (著)

っていう本がすごく面白くて、買う気もないのに立ち読みでページをめくり出すととまらなくて、そのまま数十分で7割くらい読んでしまったので、買わなかったんですけど、すごく勉強になるので、僕の代わりに買ってあげてください。買わなくてごめんなさい。

で、本題に戻るのですが、その「生き残りがしんどいカレー店」を、まぁ自転車に乗って、大阪市内で時折思い出したように発掘していってるわけです。

あ、ということで、この日記のテーマは「自転車」なのです。やっとここで本題に入った。(笑)

春で天気も良いし、ブラブラと事務所近くの食べ物屋めぐりとかをしていて、ふと「あ、そういえば昔、ここらにおいしいカレー屋さんがあったよなぁ」と少し前に探し回ってみたんですよ。
「K」という店なんですがね。

でも、ないわけです。
どこにもない。
跡形もない。

ありゃー、やめちゃったのかなぁと思ってあきらめてたんですが、しばらくして、「あ、そういえば、あのお店、梅田の大きなビルの地下に支店を出してたよなぁ」と気がついたわけです。

で、このビルがたまたま、ウクレレを習ってるお仲間の職場があるビルだったのを思い出して、ウクレレ教室の時に、

「ねぇ○○さん、あそこのビルに勤めているんでしょ? あそこにKというカレー屋さんって、まだあるんですか?」

と尋ねてみたわけです。そしたら、

「あ、Kでしょ? あのお店、たぶん夜逃げしたんだと思いますよ。ある日急にやらなくなりましたから。」

と、衝撃的な話を聞かされたのであります。

「ええええ! ほんまに? あんなにおいしくて、あんなに話題で、いつも夜とか満席で予約せんとアカンかった店やのに?」と私。

「ああ、そうですねぇ、夜に高価格帯でやってはりましたよねぇ。でも、うちのビルのあたりの再開発がずいぶんと予定より遅れてしまったから、予定よりお客さんが来なかったんだと思いますよ。他のお店は、お昼の定食とかお弁当とかでなんとか生き残ってらしたんですけど、あの店は、お昼にそういうのもしてなかったし。」

という、えらく詳しい情報まで入りまして。
たぶん、本店ともども、「夜逃げや!」と、消えてなくなったんだろうなぁと。

そういう寂しい情報が手に入ったわけであります。

で、今日もまた、その、昔おいしいカレー屋さんがあったあたりを自転車でちんたらと走っていたら、こんどはある食堂の宣伝看板に、上記の「K」とはまた別の「R」というお店の名前が小さく書いてあったのです。

いわく。
「この地で20年前に営んでいた<R>のカレー。食堂と名前を変えてからも、その味は引き継ぎ、いまも××カレーとして提供しています。」
となっていたのであります。

「えええええ! ? この店、あの<R>やったん?」

てなもんであります。

昔昔、僕がまだ会社勤めをしていた頃、ちょうどこのあたりを毎日うろちょろしていたわけで、その当時の「おいしいカレー屋さん」2軒のうちの、もう一軒が生き残っていた、という話なわけです。

おおおおお、それはうれしい!

「K」のカレーと、「R」のカレーは、どちらも独自性の高いよそでは食えない「お店カレー」そのものの代表のような味だったんですね。
「K」のカレーはフルーツやらなにやらがしっかり煮込んであってこってりしながらも独特の風味で、トッピングにスルメやらイカの塩辛やらを出していた個性派。(これだけで「K」ってどこのことか、わかる人には分かってしまうなぁ。まぁいいか。)
「R」の方は、本当にインド風の小麦粉を使わないスパイスたっぷりの辛くてさらりとした香り豊かなカレー。
どっちも家庭ではまねできない味で、実においしかったのですよ。

その20年前に良く食べたカレーの、もう片方の雄が生き残っていたとは!

昔はその「R」はカレー単品で勝負していたので、「あれでは経営が苦しかろう。いつつぶれてもおかしくないよなぁ」と思っていたのです。だから見かけなくなっても「まぁしゃーないわなぁ」と思っていたのです。

逆に「K」の方は、雑誌等にも紹介されたりして、支店も出して、家庭料理風のお昼の低価格路線からゆっくりと夜の高級ディナーカレーへと変身していってたので、利益率等からも「K」こそが安泰と思ってたわけです。

でも、20年たって、その「K」が夜逃げしていて、「長くはなかろう」と思っていた「R」が生き残っていた、という事の方が不思議で面白く、久しぶりに「R」のカレーを食べてやろうと思ったわけです。

入ってみると名前を「食堂」に変更しているだけあって、内装も自然派風に変えてるし、お昼の定食とかもしっかりとメニューにある食堂そのものになってたわけです。

「ほほう、こういう具合にリニューアルして生き残ってたのかぁ」と思って、でも、定食など頼むはずもなく、とにかくカレーを注文したのです。

すると!

これがまた驚きでしたなぁ。昔の味そのままではないのです!
進化してる!

昔の味をベースに野菜などを盛り込んで、親しみやすさやボリューム感が加わった、実においしいカレーに変貌していたわけです。

なるほどなぁって思う。

お店を見てみると、前はご主人が一人でやっていて、たぶんいまは奥さんであろうと思われる人と二人でされてるんですが、他に従業員がいるわけでもなく、手を広げずに、基本は守りながらも、メニュー展開を増やすなどして、小さな変革を少しずつ加えてきた感じなわけです。
実際お店の名前も変わってるしね。

でも、やってることは、昔から変わらず。
というか、昔の味をベースに、地域のお客さんに愛されるように工夫し、発展させた味なわけですね。「本格派インドカリー」から、「本格派インドカリーを親しみやすく」に展開させた感じなんですね。
ちょっとずつちょっとずつ、お客さんの顔を見ながら変えてきた感じなわけです。

そうか、そういう事なんだなぁと、しみじみと思ったわけです。

「K」の方は、経営的に進化させたわけです。お店のカレーの味は基本的には同じでした。おいしいことはおいしいんですけど、お昼の定食的な、しんどいばっかりで、利益率の悪い展開をするのではなく、夜のディナータイムにシフトさせて、付加価値高価格路線にシフトしてたわけです。実際、後期は「彼女と二人でカレーディナーというのもおしゃれ」みたいな世界に進んでたわけです。

で、その流れで、大きなビルの地下の、グレードの高い店舗を借りて姉妹店まで作ったわけです。味に自信があったんでしょうね。実際おいしかったし。それでそのまま「経営的進化」をさせてしまったんですね。

でも、「R」の方は違った。メニュー展開を変えて、味を進化させた。経営的には、いまだにあまり効率良くないと思うんだけど、でも味は変えてないんですね。で、その実、カレー単品の値段は、少し値上がりしてるくらいなんです。ミニサラダのついたセットメニューを作ったりしてメニューにバラエティを出して単価アップも狙ってるし。

でも、アルバイトも使ってないから、混んでくるとお客さんが自分でお皿をカウンターに戻してあげてるというような状態にまでなっていたりして、経営的にはあんまり優れているとは言い難い。

でも、生き残ってるのは、「R」の方なんですよねぇ。

ようは経営的進化より、本質的進化の方が長続きしてるって事です。

そこが、すごく面白かったんですね。

いや、「R」のようなやり方が正しいというわけでもないと思うのですが、それでも、ビジネスにおける進化の方向性みたいな事を考えると、一考の余地のある出来事だよなぁと思わざるをえないのです。

もともと、カレー屋さんっていうのは、経営が難しいんです。家庭のカレーに勝つのは並大抵ではないのです。
だからこそ、この2つの例は面白いよなぁと、100年に一度の大不況の年に感慨深かったということです。

電車や車で移動してたのでは、これは分からなかった事なんですよねぇ。

自転車で移動してるからこそ発見できた変化なのでありまして。

そういう意味でもすごく面白かった出来事なのでありました。

ま、そういう事であります。

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