ゲームを否定したゲーム
2005年12月15日 ゲーム コメント (1)
東北大学未来科学技術共同研究センター 川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング
Video Game 任天堂 2005/05/19 ¥2,800
レビューと思った人、ごめんなさい。レビューじゃないのよ。
先日、ここで、任天堂の岩田社長の話を書きましたが、実はその続き。
あの岩田社長の基調講演と、このソフトの意味とを重ね合わせてはじめて、岩田社長の言ってる意味が明確になるという側面もあるので、書いておきたかったのです。
とくに「ゲーム好き」ほど、このゲーム(?)の持つ意味の大きさがわからないと思うので。
この「脳を鍛える…」は実は、本来完全にテレビゲームやら携帯ゲームを否定するところからでてきているものだ、ということを理解しないと、話は始まらないんです。
で、すでに川島さんの著書を読んでる人なら言わずもがな、老人たちのデイケア・センターに関わりを持っている人なら皆知ってると思いますが川島さんの著書は、「ゲームでは頭は活性化されない。それよりも音読や単純な四則演算がいい。」という主張の本なんです。
ちょっと前に「ゲーム脳の恐怖」という、あまりデータに信憑性のない本がありましたが、そういう本とこの川島さんの主張は、まったく違う。
なぜなら。
●川島隆太教授自身が、ゲーム好き。
だからです。
「は? 意味わからん?」ですか?
順に説明しましょう。この川島教授は、僕とほぼ同年代の方ですが、若き大学院生(?)の時に、脳のポジトロン画像という、人間の脳を動いている状態で、血流などを測定できる装置と出会って、それを使った研究をした方なわけです。
で、川島さんは僕と同年代、まさにゲーム第一世代とでも言うような人ですから、「ゲームによって、脳が活性化される」という結論を導きだすために、ゲームをしている学生の脳のポジトロン画像を撮ったわけです。
なんといってもゲームです。画像も動くし、音も出る。しかも指でコントローラーを動かすし、画面の動きにあわせて、たくみにボタンを押さねばならない。画面の文字も読むし、音楽も聴く。これだけマルチな情報を扱っているのだから、脳が活性化しないはずはない。
そう考えられたわけです。
で、実際に得られた画像では、それはそれなりに活性化していたので、「よし、思ったとおりだ」と満足されたらしいのですよ。
でも、直接川島教授を指導していた教授が「まぁこれでも良いが、比較対照できるデータも欲しいね。その比較があれば、説得力が出て良い研究論文になる。」と指導されたんだそうです。
で、若い川島教授は、「ゲームと比べて極端に単純な作業と比較するのがいいなぁ。」と、クレペリンテストの様子をデータとしてつけることにしました。
クレペリンテストというのは3から9までの数字を百個程並べて、その隣り合う二つの数字を足し合わせ、間に答えの一の位だけを書くという単純な計算テストです。
川島教授は、このテストが単純で計算すること自体に飽きてしまうほどだから、比較対象にちょうどいいと考えたんです。
しかし!
実際に測定してみたら、クレペリンテストの方が、明らかに脳が活性化しているというデータが出た。
「そんなばかな」
ですね。川島教授、信じられない結果に唖然として、「これは何かの間違いだ」と、このデータ自体をしばらく葬り去ってたそうです。
しかし、あらためて似たような調査をしても同じ結果になるし、決して「何かの間違い」ではないことがわかり、ためしに老人ホームで認知症、わかりやすく一般的な言い方で言えば、ちょっとボケの入った老人達に簡単な計算問題をやってもらったところ、実際に脳が活性化され、ボケの症状が改善された、ということなんです。
だから、基本的にゲームファンだった川島教授が言うからこそ、「脳の活性化にゲームは役立つように思ったけど、単純計算や音読に及びません」という結論には、大きな大きな意味があるわけです。
無理矢理ゲームをないがしろにした結論ではない。
それどころか、ゲームこそが脳を活性化させるという前提でテストしていた方なのです。そういう人が「ゲームでは脳は活性化されない」と発言している。
だから、本来、川島教授の名前を冠して、数多くの大人の計算ドリルやら音読教材が書店で並んでますが、あの本、一冊一冊が、決定的な「ゲーム否定存在」なんですね。
このあたりのことは多分、ゲームファンは知らない人の方が多いと思うのです。
しかし、この「単純計算や音読とゲーム」というものが対立項になってるということを、僕は川島さんの本を、ちらりと読んで知っていたわけです。
で、そういうことを思っていたら、任天堂から、このゲーム(?)がNINTENDO DS というタッチペンや音声入力を持った新しいタイプの携帯「ゲーム」機用のソフトとして発売されたわけです。
で、その発売を僕は何で知ったかというと、新聞です。
ここのところゲーム関連の雑誌を読まなくなっていたので、何も知らなかったのですが、見たときは、いきなり新聞の全面広告でした。
新聞の全面広告!
ですよ。
すごいスタンダードそのものの媒体で、直球、真っ向勝負の宣伝活動です。「いける!」「幅広い層に受け入れられる」という確信なくしては、打てない広告です。
それを任天堂はやった。岩田さんのあの講演のとおりです。そのままです。
この意味がわかりますか?
それはもう完全に「従来型ゲームの否定」なんです。
完全にそうなんです。
それを、任天堂がやった。
ほかにできる会社はなかったとも言えますが、とにかくやった。
偉い。
本当にえらい。
山内社長のやったことを完全否定したのと同じ事なんです、これは。
でも、たぶん、この革命的な広告の意味とか、時代の流れとかを、いままさにシュリンクしていってるゲーム市場をささえている「ゲーム好き」の人たちは、あまり気づいてないと思うのです。
というのも、この手の「学習ソフト」は、いままでにも何本も出てるのです。だから「ゲーム好き」の人たちは、それらと同じバリエーションとしてしか見ていない。
でも、違うんだよ。そういうことではないんだ。
このソフトは完全に従来のゲームファンを否定してるソフトなんだってことが大事で、それを岩田さんがメインに持ってきたということが大事なんだよ。
「脳を鍛える」
このこと自体が、いまの時代に求められている、必要な課題になってしまっている、そういう時代なんだってことなんですね。
だからこれは、時代の大きな転換点をあらわすターニングポイントのソフトなんです。
誰もそこまで思ってないだろうけど。
でも、時代は日本人にさえ、仕事における「キャリア」を求めるようになってきていて、そして、競争の少ない、順送り人事などの時代を経て老人になった人たちが、認知症と言われている。そのことを深く認識しないとダメだってことなんです。
ありていに言えば、従来型ゲームは楽しいけれど、勉強は勉強でキチンとやってないと、置いてかれるよってことでもあります。
ゲームしかしないような大人は、やっぱりダメだってことですね。
そして、自分を鍛えないと生き抜いていけない時代になっちゃってしまってるんだってことなんです。
これはもういやおうなしで、味気なくて嫌だけど、実際そうなっちゃったんだからしょうがないよなぁ。
うむーむむむって話です。
Video Game 任天堂 2005/05/19 ¥2,800
レビューと思った人、ごめんなさい。レビューじゃないのよ。
先日、ここで、任天堂の岩田社長の話を書きましたが、実はその続き。
あの岩田社長の基調講演と、このソフトの意味とを重ね合わせてはじめて、岩田社長の言ってる意味が明確になるという側面もあるので、書いておきたかったのです。
とくに「ゲーム好き」ほど、このゲーム(?)の持つ意味の大きさがわからないと思うので。
この「脳を鍛える…」は実は、本来完全にテレビゲームやら携帯ゲームを否定するところからでてきているものだ、ということを理解しないと、話は始まらないんです。
で、すでに川島さんの著書を読んでる人なら言わずもがな、老人たちのデイケア・センターに関わりを持っている人なら皆知ってると思いますが川島さんの著書は、「ゲームでは頭は活性化されない。それよりも音読や単純な四則演算がいい。」という主張の本なんです。
ちょっと前に「ゲーム脳の恐怖」という、あまりデータに信憑性のない本がありましたが、そういう本とこの川島さんの主張は、まったく違う。
なぜなら。
●川島隆太教授自身が、ゲーム好き。
だからです。
「は? 意味わからん?」ですか?
順に説明しましょう。この川島教授は、僕とほぼ同年代の方ですが、若き大学院生(?)の時に、脳のポジトロン画像という、人間の脳を動いている状態で、血流などを測定できる装置と出会って、それを使った研究をした方なわけです。
で、川島さんは僕と同年代、まさにゲーム第一世代とでも言うような人ですから、「ゲームによって、脳が活性化される」という結論を導きだすために、ゲームをしている学生の脳のポジトロン画像を撮ったわけです。
なんといってもゲームです。画像も動くし、音も出る。しかも指でコントローラーを動かすし、画面の動きにあわせて、たくみにボタンを押さねばならない。画面の文字も読むし、音楽も聴く。これだけマルチな情報を扱っているのだから、脳が活性化しないはずはない。
そう考えられたわけです。
で、実際に得られた画像では、それはそれなりに活性化していたので、「よし、思ったとおりだ」と満足されたらしいのですよ。
でも、直接川島教授を指導していた教授が「まぁこれでも良いが、比較対照できるデータも欲しいね。その比較があれば、説得力が出て良い研究論文になる。」と指導されたんだそうです。
で、若い川島教授は、「ゲームと比べて極端に単純な作業と比較するのがいいなぁ。」と、クレペリンテストの様子をデータとしてつけることにしました。
クレペリンテストというのは3から9までの数字を百個程並べて、その隣り合う二つの数字を足し合わせ、間に答えの一の位だけを書くという単純な計算テストです。
川島教授は、このテストが単純で計算すること自体に飽きてしまうほどだから、比較対象にちょうどいいと考えたんです。
しかし!
実際に測定してみたら、クレペリンテストの方が、明らかに脳が活性化しているというデータが出た。
「そんなばかな」
ですね。川島教授、信じられない結果に唖然として、「これは何かの間違いだ」と、このデータ自体をしばらく葬り去ってたそうです。
しかし、あらためて似たような調査をしても同じ結果になるし、決して「何かの間違い」ではないことがわかり、ためしに老人ホームで認知症、わかりやすく一般的な言い方で言えば、ちょっとボケの入った老人達に簡単な計算問題をやってもらったところ、実際に脳が活性化され、ボケの症状が改善された、ということなんです。
だから、基本的にゲームファンだった川島教授が言うからこそ、「脳の活性化にゲームは役立つように思ったけど、単純計算や音読に及びません」という結論には、大きな大きな意味があるわけです。
無理矢理ゲームをないがしろにした結論ではない。
それどころか、ゲームこそが脳を活性化させるという前提でテストしていた方なのです。そういう人が「ゲームでは脳は活性化されない」と発言している。
だから、本来、川島教授の名前を冠して、数多くの大人の計算ドリルやら音読教材が書店で並んでますが、あの本、一冊一冊が、決定的な「ゲーム否定存在」なんですね。
このあたりのことは多分、ゲームファンは知らない人の方が多いと思うのです。
しかし、この「単純計算や音読とゲーム」というものが対立項になってるということを、僕は川島さんの本を、ちらりと読んで知っていたわけです。
で、そういうことを思っていたら、任天堂から、このゲーム(?)がNINTENDO DS というタッチペンや音声入力を持った新しいタイプの携帯「ゲーム」機用のソフトとして発売されたわけです。
で、その発売を僕は何で知ったかというと、新聞です。
ここのところゲーム関連の雑誌を読まなくなっていたので、何も知らなかったのですが、見たときは、いきなり新聞の全面広告でした。
新聞の全面広告!
ですよ。
すごいスタンダードそのものの媒体で、直球、真っ向勝負の宣伝活動です。「いける!」「幅広い層に受け入れられる」という確信なくしては、打てない広告です。
それを任天堂はやった。岩田さんのあの講演のとおりです。そのままです。
この意味がわかりますか?
それはもう完全に「従来型ゲームの否定」なんです。
完全にそうなんです。
それを、任天堂がやった。
ほかにできる会社はなかったとも言えますが、とにかくやった。
偉い。
本当にえらい。
山内社長のやったことを完全否定したのと同じ事なんです、これは。
でも、たぶん、この革命的な広告の意味とか、時代の流れとかを、いままさにシュリンクしていってるゲーム市場をささえている「ゲーム好き」の人たちは、あまり気づいてないと思うのです。
というのも、この手の「学習ソフト」は、いままでにも何本も出てるのです。だから「ゲーム好き」の人たちは、それらと同じバリエーションとしてしか見ていない。
でも、違うんだよ。そういうことではないんだ。
このソフトは完全に従来のゲームファンを否定してるソフトなんだってことが大事で、それを岩田さんがメインに持ってきたということが大事なんだよ。
「脳を鍛える」
このこと自体が、いまの時代に求められている、必要な課題になってしまっている、そういう時代なんだってことなんですね。
だからこれは、時代の大きな転換点をあらわすターニングポイントのソフトなんです。
誰もそこまで思ってないだろうけど。
でも、時代は日本人にさえ、仕事における「キャリア」を求めるようになってきていて、そして、競争の少ない、順送り人事などの時代を経て老人になった人たちが、認知症と言われている。そのことを深く認識しないとダメだってことなんです。
ありていに言えば、従来型ゲームは楽しいけれど、勉強は勉強でキチンとやってないと、置いてかれるよってことでもあります。
ゲームしかしないような大人は、やっぱりダメだってことですね。
そして、自分を鍛えないと生き抜いていけない時代になっちゃってしまってるんだってことなんです。
これはもういやおうなしで、味気なくて嫌だけど、実際そうなっちゃったんだからしょうがないよなぁ。
うむーむむむって話です。
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